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システム監査・10/11・8分

情報セキュリティ監査基準と ISMS

ゴール

情報セキュリティ監査基準の「判断尺度」と「監査対象」を正しく選べるようになる。ISMSを作るときの手順の順番(リスク受容基準→リスクアセスメント→管理策選択→適用宣言書)を見て、内部監査で指摘すべき状況を見分けられるようになる。

出題はそれほど多くありません。ただ、出たときは「どの基準を物差しにするか」「どの制度が何を認証するか」「手順の順番」をそのまま問う形になりやすく、用語と順番を押さえれば確実に取れる分野です。前のレッスンで扱った監査一般の考え方(独立性など)が、そのまま情報セキュリティ版にも当てはまります。

このレッスンで稽古する(用語チェック・過去問)

結論:名前が似た3つを分けて覚える

このレッスンの得点源は、名前がよく似た3つの文書を区別することです。監査基準=監査人の行動ルール、管理基準=監査で使う物差し、JIS Q 27001=組織がISMSを作るときの要求事項です。

名前 誰のためのもの 中身 試験でのキーワード
情報セキュリティ監査基準 監査人 監査人の独立性・監査の進め方・報告の仕方 「監査人は〜」の記述
情報セキュリティ管理基準 監査人・組織 組織が実施すべき管理策の一覧。監査の判断の尺度 「判断の尺度には原則として〜」
JIS Q 27001 ISMSを作る組織 ISMSの要求事項(日本の規格。ISO/IEC 27001の翻訳版) 「ISMS適合性評価制度」「適用宣言書」

たとえるなら健康診断です。監査基準は「医師が守る診察のルール」、管理基準は「検査値の正常範囲の表」にあたります。医師は正常範囲の表と見比べて判定するのと同じで、監査人も管理基準と見比べて判定します。

監査人守るルール:情報セキュリティ監査基準物差しを手に取る物差し:情報セキュリティ管理基準判断の尺度(原則としてこれを使う)当てて見比べて判定組織のISMS作るときの要求事項:JIS Q 27001(ISO/IEC 27001の翻訳版)
監査人は監査基準というルールを守り、管理基準という物差しを当てて、JIS Q 27001で作られた組織のISMSを判定する。

情報セキュリティ監査基準:判断尺度と監査人の条件

情報セキュリティ監査基準は、経済産業省が定めた日本の基準です(Ver1.0)。監査人が守るべきことをまとめています。判断の尺度には、原則として情報セキュリティ管理基準を使う、という点が最もよく問われます。

押さえる4点:

  • 判断の尺度:原則として情報セキュリティ管理基準(平成28年改正版)を使う → 正しい
  • 独立性:監査人には独立性(監査対象の部門から離れた立場)と客観性が必要 → 「専門性が高いので独立性は不要」は誤り
  • 他の専門家の支援:必要に応じて受けてよい → 「受けてはならない」は誤り
  • 国際規格との関係:日本独自に策定した基準。ISMSの国際規格と「同一の内容」ではない → 誤り

独立性については、前のシステム監査のレッスンと考え方が同じです。「自分の仕事を自分で採点しない」と覚えれば迷いません。

監査対象は「情報資産」:紙もコンピュータの無い部署も入る

情報セキュリティ監査の対象は情報資産です。情報資産とは、組織にとって価値のある情報と、それを扱う媒体全部のことです。紙の書類・USBメモリ・人の頭の中のノウハウまで含みます。

用語 範囲 コンピュータ未導入の部署
情報資産(情報セキュリティ監査の対象) 電子データ・紙の書類・記憶媒体・人の知識など、情報全般 対象になる(紙の顧客台帳なども守るべき情報)
情報システム(システム監査で中心になる対象) コンピュータとネットワークによる仕組み 該当しない

たとえば、手書きの顧客名簿を鍵のない棚に置いている部署は、パソコンが1台も無くても情報漏えいのリスクを抱えています。だから監査が必要です。

情報資産=情報セキュリティ監査の対象情報システムシステム監査の中心:コンピュータとネットワーク紙の書類USBメモリ人の知識パソコンが1台も無い部署の手書きの顧客名簿も対象になる
情報セキュリティ監査の対象である情報資産は、情報システムよりずっと広く、紙や人の知識まで含む。

ISMSとISMS適合性評価制度

ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)とは、組織が情報セキュリティをPDCAで継続的に管理する仕組みのことです。要求事項はJIS Q 27001に書かれています。ISMS適合性評価制度は、組織のISMSがJIS Q 27001に適合しているかを第三者の認証機関が審査・認証する制度です。

試験では、似た「第三者がお墨付きを出す制度」と並べて出されます。

制度 何を評価するか もとになる規格・基準
ISMS適合性評価制度 組織の情報セキュリティマネジメントの仕組み JIS Q 27001
ITセキュリティ評価及び認証制度(JISEC) IT製品のセキュリティ機能 ISO/IEC 15408
プライバシーマーク制度 個人情報を適切に保護する体制がある事業者 JIS Q 15001
暗号モジュール試験及び認証制度(JCMVP) 暗号モジュール(暗号処理を行う装置やソフト)の実装とセキュリティ要件 JIS X 19790(ISO/IEC 19790)など

注意:電子政府推奨暗号リスト(CRYPTREC)は、国が推奨する暗号アルゴリズムの一覧です。認証制度ではありません。「暗号」という言葉が共通なので、JCMVPと混同しないでください。

見分け方:組織の仕組み=ISMS、製品=15408、個人情報=Pマーク、暗号モジュール=JCMVP。

ISMSを作る手順:まず基準、次に評価、最後に宣言

ISMSを作る(確立する)ときの順番は、「物差しを決める→測る→対策を選ぶ→選んだ結果を宣言する」です。適用宣言書とは、規格の附属書にある管理策(セキュリティ対策の項目)ごとに、採用するかしないかとその理由をまとめた文書です。対策を選び終えないと書けないので、必ず最後になります。

flowchart TD
  A["① リスク受容基準を決める(どこまでのリスクなら受け入れるか)"] --> B["② リスクアセスメント(リスクの特定・分析・評価)"]
  B --> C["③ リスク対応:管理目的と管理策を選ぶ"]
  C --> D["④ 適用宣言書を作る"]
  • リスク受容基準:「このくらいのリスクなら対策せずに受け入れる」という線引き
  • リスクアセスメント:リスクを洗い出し(特定)、大きさを見積もり(分析)、受容基準と比べて対策の要否を決める(評価)

リスク受容基準は評価で使う物差しなので、リスクアセスメントの前に決めておく必要があります。測った後で物差しを決めると、結果に合わせて基準を甘くできてしまうからです。

ISMS内部監査で「指摘事項」になるもの

内部監査とは、組織が自分たちのISMSを社内の監査人にチェックさせることです。指摘事項として監査報告書に書くのは、規格や社内ルールから外れている状況(不適合)です。

状況 判定 理由
手順どおりにUSBメモリの使用を許可した 指摘不要 ルールどおりの運用
事故を規定どおりに官庁へ報告した 指摘不要 事故は起きたが、対応は規定どおり
マルウェアを検知して駆除した 指摘不要 対策が正しく働いた
リスクアセスメントの後にリスク受容基準を決めた 指摘事項 手順の順番がJIS Q 27001の要求と逆

「事故やマルウェアが出た=悪いこと」に見えますが、監査が見るのはルールどおりに管理・対応したかです。結果の良し悪しではなく、手順から外れているかで判断します。

正しい順番(指摘不要)①受容基準を決める②リスクアセスメント③管理策を選ぶ④適用宣言書逆の順番(指摘事項)先にリスクアセスメント後で受容基準を決める測った後で物差しを決めると結果に合わせて甘くできるJIS Q 27001の要求と逆=不適合
リスク受容基準をリスクアセスメントの前に決めれば指摘不要、後に決めるとJIS Q 27001の要求と逆なので指摘事項になる。
例題 1

ISMS確立の順番を並べる

JIS Q 27001:2006におけるISMSの確立に必要な事項①~③の順序関係のうち,適切なものはどれか。 ① 適用宣言書の作成 ② リスク対応のための管理目的及び管理策の選択 ③ リスクの分析と評価

ア ①→②→③
イ ①→③→②
ウ ②→③→①
エ ③→②→①

出典:平成22年度 春期 基本情報技術者試験 午前 問80

解き方と答えを見る
  1. 3つの項目の意味を確認する。①適用宣言書の作成=選んだ管理策の採否と理由を宣言する文書を作る。②管理目的・管理策の選択=リスクへの対策を選ぶ。③リスクの分析と評価=リスクの大きさを測る。
  2. 「測る→選ぶ→宣言する」の流れに当てはめる。対策はリスクを測らないと選べないので、③が②より先になる。
  3. 適用宣言書は選んだ管理策の一覧なので、②が終わらないと書けない。よって①は最後になる。
  4. 順番は ③→②→① となる。選択肢から「③→②→①」を探す。

答え:エ(③リスクの分析と評価 → ②管理目的・管理策の選択 → ①適用宣言書の作成)

例題 2

内部監査で指摘すべき状況を選ぶ

JIS Q 27001:2014(情報セキュリティマネジメントシステム−要求事項)に基づいて ISMS 内部監査を行った結果として判明した状況のうち,監査人が指摘事項として監査報告書に記載すべきものはどれか。

ア USB メモリの使用を,定められた手順に従って許可していた。
イ 個人情報の誤廃棄事故を主務官庁などに,規定されたとおりに報告していた。
ウ マルウェアスキャンでスパイウェアが検知され,駆除されていた。
エ リスクアセスメントを実施した後に,リスク受容基準を決めた。

出典:平成30年度 秋期 基本情報技術者試験 午前 問58

解き方と答えを見る
  1. 判定の基準を決める。指摘事項=JIS Q 27001や社内規定から外れている状況(不適合)。
  2. ア:定められた手順どおりにUSBメモリの使用を許可している → ルールどおりなので不適合ではない。
  3. イ:事故を規定どおりに報告している → 対応がルールどおりなので不適合ではない。
  4. ウ:マルウェアを検知して駆除できている → 管理策が機能している証拠なので不適合ではない。
  5. エ:リスク受容基準をリスクアセスメントの後に決めた → 受容基準はアセスメントの前に決める物差し。順番が逆なので不適合になる。

答え:エ(リスクアセスメントの実施後にリスク受容基準を決めた)

要点(試験直前に読む)

  • 情報セキュリティ監査の判断の尺度=原則として情報セキュリティ管理基準。
  • 監査人には独立性が必要。他の専門家の支援は受けてよい。監査基準は日本独自のもので、国際規格と同一ではない。
  • 監査対象は情報資産(紙も人の知識も含む)。だからコンピュータの無い部署も監査対象。
  • ISMS適合性評価制度=JIS Q 27001で組織のISMSを認証。15408=IT製品、Pマーク=JIS Q 15001、JCMVP=暗号モジュール。
  • ISMS確立の順番:リスク受容基準 → リスクアセスメント → 管理策の選択 → 適用宣言書。
  • 内部監査の指摘事項=ルールや手順の順番から外れている状況。ルールどおりの運用や対応は指摘しない。

ひっかけ

  • 「専門性が高いので独立性は不要」「他の専門家の支援を受けてはならない」→ どちらも誤り。独立性は必須で、支援は受けてよい。
  • 「監査対象は情報システム」→ 誤り。対象は情報資産なので、コンピュータ未導入の部署も対象になる。
  • ISMS適合性評価制度の説明に、15408(製品)、JIS Q 15001(Pマーク)、電子政府推奨暗号リスト(暗号)を混ぜてくる → 「組織のISMS+JIS Q 27001」の組み合わせだけが正解。
  • 順番問題で適用宣言書を先頭に置く → 適用宣言書は選んだ管理策の結果なので、必ず最後。
  • マルウェア検知や事故報告を「悪いこと」として指摘事項に選ばせる → 監査が見るのはルールどおりかどうか。順番が逆の「受容基準を後で決めた」が指摘事項。

用語(18)

情報セキュリティ監査基準 じょうほうせきゅりてぃかんさきじゅん
経済産業省が定めた、情報セキュリティ監査を行う監査人の行動ルールと監査の進め方の基準。
⚠ 情報セキュリティ管理基準と混同しやすい。監査基準=監査人のルール、管理基準=判断に使う物差し。
情報セキュリティ管理基準 じょうほうせきゅりてぃかんりきじゅん
組織が実施すべき情報セキュリティの管理策をまとめた基準で、情報セキュリティ監査の判断の尺度として原則使われるもの。
⚠ 監査基準との区別。「判断の尺度」と書かれていたら管理基準。
判断の尺度 はんだんのしゃくど
監査で、対象が適切かどうかを判定するときに比べる基準。
情報資産 じょうほうしさん
組織にとって価値のある情報と、それを扱う媒体全般のことで、電子データだけでなく紙や人の知識も含む。
⚠ 情報システムと混同しやすい。情報資産は紙も含むので、コンピュータの無い部署も監査対象になる。
独立性 どくりつせい
監査人が監査対象から離れた立場にあり、利害関係なく公正に判断できること。
⚠ 「専門性が高いから独立性は不要」という誤りの選択肢に注意。独立性は常に必要。
ISMS Information Security Management System(情報セキュリティマネジメントシステム)
組織が情報セキュリティをPDCAで継続的に管理・改善するための仕組み。
JIS Q 27001 じすきゅーにまんななせんいち
ISMSの要求事項を定めた日本の規格で、ISO/IEC 27001を日本語にしたもの。
⚠ JIS Q 15001(個人情報保護・Pマーク)と番号が似ている。27001=ISMS、15001=個人情報。
ISMS適合性評価制度 あいえすえむえすてきごうせいひょうかせいど
組織のISMSがJIS Q 27001に適合しているかを第三者の認証機関が審査・認証する制度。
⚠ 評価するのは「組織の仕組み」。IT製品の評価(ISO/IEC 15408)とは違う。
ISO/IEC 15408 あいえすおー・あいいーしー いちまんごせんよんひゃくはち(コモンクライテリア)
IT製品のセキュリティ機能が適切・確実に作られているかを評価するための国際規格。
⚠ ISMS適合性評価制度と混同しやすい。15408は製品、ISMSは組織。
プライバシーマーク制度 ぷらいばしーまーくせいど
JIS Q 15001に基づき、個人情報を適切に保護する体制を整えた事業者を認定する制度。
⚠ ISMSは情報全般、Pマークは個人情報に限定。
暗号モジュール試験及び認証制度 JCMVP(Japan Cryptographic Module Validation Program)
JIS X 19790(ISO/IEC 19790)などに基づき、暗号モジュールの実装とセキュリティ要件を試験・認証する制度。
⚠ 電子政府推奨暗号リストと混同しやすい。リストは推奨暗号アルゴリズムの一覧であり、認証制度ではない。
電子政府推奨暗号リスト でんしせいふすいしょうあんごうりすと(CRYPTREC暗号リスト)
CRYPTRECが安全性などを評価し、政府が利用を推奨する暗号アルゴリズムをまとめた一覧。
⚠ JCMVPと混同しやすい。リスト=アルゴリズムの一覧、JCMVP=暗号モジュールの認証制度。
リスク受容基準 りすくじゅようきじゅん
どの程度のリスクなら対策せずに受け入れるかを決めた線引きで、リスクアセスメントの前に決めておくもの。
⚠ 順番のひっかけに注意。アセスメントの「後」に決めるのは不適合。
リスクアセスメント りすくあせすめんと
リスクを特定・分析し、リスク受容基準と比べて対策が必要かを評価する一連の作業。
管理策 かんりさく
リスクを下げるために組織が実施する具体的なセキュリティ対策(入退室管理、アクセス制御など)。
適用宣言書 てきようせんげんしょ(Statement of Applicability)
規格の附属書にある管理策ごとに、採用するかしないかとその理由をまとめた文書で、ISMS確立の最後に作るもの。
⚠ 手順の最初に置く選択肢はひっかけ。管理策を選び終えた後でないと書けない。
内部監査 ないぶかんさ
組織が自分たちのISMSがルールどおり運用されているかを、社内の監査人に点検させること。
不適合 ふてきごう
規格の要求事項や組織の規定を満たしていない状態で、内部監査で指摘事項として報告する対象。
⚠ 事故やマルウェア検知そのものは不適合ではない。対応がルールどおりなら指摘不要。

このレッスンの過去問

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