在庫管理・需要予測と仕入量の決め方
移動平均で翌月の需要を予測し、定量発注方式の発注点・経済的発注量・在庫補充量を式で求められるようになる。期待値を使って最適な仕入個数を選び、機会損失額を計算できるようになる。
在庫は少ないと売り逃し、多いと保管費や廃棄が出ます。このバランスを数字で決める計算は、毎回ほぼ同じ形で出ます。四則演算だけで解けるので、科目Aでは確実に点を取りたい分野です。
このレッスンで稽古する(用語チェック・過去問)全体像:在庫の悩みは「足りない」と「余る」の2つだけ
このレッスンで扱う計算は、どれも**「足りない損」と「余る損」のバランスを取る**ためのものです。
| 立場 | 足りないと… | 余ると… |
|---|---|---|
| 損の名前 | 機会損失(売れたはずの利益を逃す) | 廃棄ロス・保管費用 |
| 対策 | 安全在庫を持つ・多めに仕入れる | 発注量を減らす・需要を予測する |
手順の流れは「①需要を予測する → ②いつ・どれだけ発注するか決める → ③結果の損得を評価する」です。以下、この順で説明します。
① 移動平均法:直近n か月の平均を来月の予測にする
移動平均法は、直近のn か月の実績を平均して、次の月の予測値にする方法です。毎月、一番古い月を外して新しい月を入れるので、平均する期間が「移動」していきます。
試験で気をつけるのはどの月から数えるかです。問題文に「前月を起点」とあれば、7月に予測するときは6月からさかのぼります。7月の実績はまだ確定していない、という前提です。
② 定量発注方式:在庫が「発注点」まで減ったら、決まった量を発注する
定量発注方式は、在庫が一定の水準(発注点)まで減ったら、毎回同じ量を発注する方法です。家のトイレットペーパーで「残り2ロールになったら12ロール入りを1袋買う」というルールと同じです。
発注点の式(最頻出)
発注点 = 1日の平均消費量 × 調達期間 + 安全在庫
調達期間は、発注してから品物が届くまでの日数です。この間にも在庫は減り続けるので、届くまでに使う分を残した時点で発注します。安全在庫は、予測より多く売れたときのための予備です。
| 比べる用語 | 定量発注方式 | 定期発注方式 |
|---|---|---|
| いつ発注するか | 在庫が発注点まで減ったとき(時期は不定) | 毎週・毎月など決まった時期 |
| どれだけ発注するか | 毎回同じ量(経済的発注量など) | その都度計算する(予測量-現在庫+安全在庫など) |
| 向いている品目 | 安価で需要が安定したもの | 高価・重要で、こまめに管理したいもの |
在庫グラフ(のこぎり型)の読み方
- 右下がりの線 = 在庫が消費されていく様子
- 線が発注点Kを横切った時点 = 発注
- 縦にまっすぐ上がる線 = 納品(在庫が一気に増える)
- 納品の直前に、在庫は安全在庫Sまで下がっている設計
納品直前の在庫が予測でSより多いXになる場合、そのまま発注量Eを受け取ると最大在庫量を超えます。そこで多すぎる分(X-S)だけ発注を取り消します。
経済的発注量(EOQ):発注費用と保管費用の合計が最小になる量
1回にたくさん発注すると発注回数が減り、発注費用(事務手数料・送料など1回ごとにかかる費用)は下がります。その代わり、倉庫に置く量が増えて保管費用が上がります。この2つの合計(総費用)が最小になる発注量が経済的発注量です。
| 費用 | 式(Q=1回の発注量) | 発注量を増やすと | グラフの形 |
|---|---|---|---|
| 年間保管費用 | (Q/2)×H | 増える | 右上がりの直線 |
| 年間発注費用 | (R/Q)×C | 減る | 右下がりの曲線 |
| 総費用 | 上の2つの合計 | 一度下がって上がる | U字形 |
| 経済的発注量 | √(2RC/H) | ― | U字の底(直線と曲線の交点)の真下の横軸 |
R=年間需要量、C=1回の発注費用、H=1単位の年間保管費用です。保管費用がQ/2倍なのは、在庫が平均すると発注量の半分くらいになるからです。
注意:発注点を求める問題で経済的発注量の数字が書かれていても、発注点の計算には使いません。わざと置かれた余計な数字です。
在庫補充量の立式:文章を1行ずつ式にする
定期発注型の「在庫補充量の式を選べ」という問題は、条件を1行ずつ式に置き換えるだけで解けます。
補充量 = 翌週の予測量 - 現在庫 + 安全在庫
安全在庫が「予測量の10%」なら、予測量×1.1-現在庫 にまとめられます。見るべきなのは**添字(何週目の値か)**です。週末の時点で手元にある在庫はB[n]、「先週と今週」の販売量はC[n-1]とC[n]です。
③ 期待利益が最大になる仕入個数:仕入個数ごとに期待値を計算して比べる
期待値は「起こりうる結果 × その確率」をすべて足したもので、何度も繰り返したときの平均的な結果を表します。仕入個数ごとに期待利益を出し、一番大きいものを選びます。
1つのケースの利益は次の式で求めます。
利益 = 売れた個数 × 1個の利益 - 売れ残り個数 × 廃棄ロス
仕入を増やすと、売れたときの利益は増えますが、売れ残りの廃棄ロスも増えます。そのため**「多いほど良い」にはなりません**。表の行が仕入個数ごとの確率なら、その行の確率だけを使います。
機会損失:需要が仕入を上回った分だけ数える
機会損失は、品切れで売れなかった分の、得られたはずの利益です。計算は需要数>仕入数の商品だけで行い、(需要数-仕入数)×1個の利益 を足します。
| 比べる用語 | 機会損失 | 廃棄ロス(売れ残りの損) |
|---|---|---|
| 起こる状況 | 需要 > 仕入(品切れ) | 需要 < 仕入(売れ残り) |
| 計算 | 不足個数 × 1個の利益 | 余った個数 × 1個の廃棄損 |
| 帳簿に出るか | 出ない(逃した利益) | 出る(実際の損失) |
仕入の方が多い商品は、機会損失が0です。
発注点を求める
ア 220
イ 250
ウ 280
エ 300
出典:基本情報技術者試験 科目A免除 修了試験 20250608 実施分 問57
解き方と答えを見る
- 発注点 = 1日の平均消費量 × 調達期間 + 安全在庫 の式を思い出す
- 調達期間中に使う量:50個/日 × 5日 = 250個
- 安全在庫を足す:250 + 30 = 280個
- 経済的発注量600個は発注「量」なので、発注点(いつ発注するか)の計算には使わない
答え:280個(ウ)
移動平均法で一番当たった期間を選ぶ
| 月 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 販売数 | 199 | 201 | 209 | 219 | 194 | 202 | 210 | 203 |
ア 3か月
イ 4か月
ウ 5か月
エ 6か月
出典:基本情報技術者試験 科目A免除 修了試験 20260614 実施分 問57
解き方と答えを見る
- 7月に8月を予測するので、起点は前月の6月。6月から過去にさかのぼる
- 3か月(4〜6月):(219+194+202)÷3 = 615÷3 = 205
- 4か月(3〜6月):(209+615)÷4 = 824÷4 = 206
- 5か月(2〜6月):(201+824)÷5 = 1,025÷5 = 205
- 6か月(1〜6月):(199+1,025)÷6 = 1,224÷6 = 204
- 8月の実績203との差:3か月=2、4か月=3、5か月=2、6か月=1
答え:6か月(エ)
定量発注の在庫グラフで発注量を直す
ア E+S-X を追加発注する。
イ K+S-X を追加発注する。
ウ K-X だけの発注を取り消す。
エ X-S だけの発注を取り消す。
解き方と答えを見る
- もともとの設計:納品直前の在庫はS。そこに発注量Eが届くと、ちょうど最大在庫量になる
- 予測が変わり、納品直前の在庫がSではなくX(Sより多い)になる
- このままEを受け取ると、最大在庫量を X-S だけ超える
- 超えないようにするには、発注量を X-S 減らせばよい(追加発注ではなく取消し)
答え:X-S だけの発注を取り消す(エ)
在庫補充量の式を組み立てる
ア (C[n-1]+C[n])/2×1.1-B[n]
イ (C[n-1]+C[n])/2×1.1-B[n-1]
ウ (C[n-1]+C[n])/2+C[n]×0.1-B[n]
エ (C[n-2]+C[n-1])/2+C[n]×0.1-B[n]
出典:基本情報技術者試験 科目A免除 修了試験 20240609 実施分 問57
解き方と答えを見る
- (3)より、翌週の販売予測量 = (先週C[n-1] + 今週C[n]) ÷ 2
- (4)より、安全在庫 = 予測量 × 0.1
- (2)より、補充量 = 予測量 - 現在庫 + 安全在庫 = 予測量 × 1.1 - 現在庫
- 第n週の週末の在庫は B[n] なので、(C[n-1]+C[n])÷2×1.1-B[n]
- イは在庫がB[n-1](先週末)でずれている。ウは安全在庫を今週の販売量C[n]の10%にしている。エは予測に使う週がずれている
答え:(C[n-1]+C[n])/2×1.1-B[n](ア)
期待利益が最大になる仕入個数
| 仕入個数\販売個数 | 4 | 5 | 6 | 7 |
|---|---|---|---|---|
| 4 | 100% | − | − | − |
| 5 | 30% | 70% | − | − |
| 6 | 30% | 30% | 40% | − |
| 7 | 30% | 30% | 30% | 10% |
ア 4
イ 5
ウ 6
エ 7
解き方と答えを見る
- 1つのケースの利益 = 売れた個数×1,000円 - 売れ残り×300円
- 仕入4個:必ず4個売れる → 4,000円
- 仕入5個:4個売れる(30%)=4,000-300=3,700 → 1,110円/5個売れる(70%)=5,000 → 3,500円。合計4,610円
- 仕入6個:4個(30%)=4,000-600=3,400 → 1,020円/5個(30%)=5,000-300=4,700 → 1,410円/6個(40%)=6,000 → 2,400円。合計4,830円
- 仕入7個:4個(30%)=4,000-900=3,100 → 930円/5個(30%)=5,000-600=4,400 → 1,320円/6個(30%)=6,000-300=5,700 → 1,710円/7個(10%)=7,000 → 700円。合計4,660円
- 比べると 4,830円(6個)が最大
答え:6個(ウ)
機会損失を求める
| 商品 | 商品 1 個当たり利益(千円) | 需要数(個) | 仕入数(個) |
|---|---|---|---|
| A | 1 | 1,500 | 1,400 |
| B | 2 | 900 | 1,000 |
| C | 3 | 800 | 1,000 |
| D | 4 | 700 | 500 |
| E | 5 | 500 | 200 |
ア 800
イ 1,500
ウ 1,600
エ 2,400
解き方と答えを見る
- 需要数 > 仕入数 の商品だけを選ぶ → A・D・E(B・Cは仕入の方が多いので0)
- A:(1,500-1,400)×1千円 = 100千円
- D:(700-500)×4千円 = 800千円
- E:(500-200)×5千円 = 1,500千円
- 合計:100+800+1,500 = 2,400千円
答え:2,400千円(エ)
要点(試験直前に読む)
- 移動平均:問題文の起点(前月など)から、直近n か月を平均する
- 発注点 = 1日の消費量 × 調達期間 + 安全在庫(経済的発注量は使わない)
- 経済的発注量 = √(2RC/H)。保管費用(直線)と発注費用(曲線)の交点、つまり総費用の最小点
- 補充量 = 予測量 - 現在庫 + 安全在庫。安全在庫が予測の10%なら、予測×1.1-B[n]
- 最適な仕入個数:仕入個数ごとに(売れた利益-廃棄ロス)×確率を合計して比べる
- 機会損失 = Σ(需要-仕入)× 1個の利益。需要>仕入の商品だけで計算する
ひっかけ
- 発注点の問題に経済的発注量の数字が書かれている → 使わない。発注点の計算は消費量×調達期間+安全在庫だけ
- 在庫グラフで在庫予測が増えたとき → 追加発注ではなく、上限を超える分(X-S)を取り消す
- 在庫補充量の式で添字がずれた選択肢(B[n-1]、C[n-2])や、安全在庫の基準を「今週の販売量」にした選択肢 → 条件文を1行ずつ式に直して照合する
- 期待利益で「仕入が多いほど得」と考える → 売れ残りの廃棄ロスを必ず引く
- 機会損失に仕入過剰の商品(B・C)を足す、または利益を掛け忘れて個数だけで答える → 需要>仕入の商品だけを選び、1個の利益を掛ける
用語(15)
過去の販売実績などから、これから売れる量を見積もること。
直近n期間の実績を平均して次の期間の予測値にし、期間を1つずつずらしながら使う方法。
⚠ 全期間の単純平均とは違い、古いデータを外していく。どの月を起点にするかを問題文で確認する
在庫が発注点まで減ったら、毎回決まった量を発注する方式。
⚠ 定期発注方式は「時期が固定で量が毎回変わる」。定量発注方式は「量が固定で時期が変わる」
決まった間隔で、その都度計算した量を発注する方式。
⚠ 定量発注方式との違いは、発注の時期と量のどちらが固定されているか
この在庫量まで減ったら発注する、という基準の量。1日の消費量×調達期間+安全在庫で求める。
⚠ 発注量(1回に頼む量)とは別物。発注点の計算に経済的発注量は使わない
需要の予測が外れたり納品が遅れたりしたときに備えて持つ、予備の在庫。
⚠ 最大在庫量(在庫の上限)と混同しない。安全在庫は在庫の下限の目安
発注してから品物が届くまでにかかる期間。
在庫として持ってよい量の上限で、納品直後に在庫量が最も多くなる。
⚠ 安全在庫は下限側の量、最大在庫量は上限側の量
発注費用と保管費用の合計が最小になる1回あたりの発注量で、√(2RC/H)で求める。
⚠ 総費用の式((Q/2)H+(R/Q)C)と取り違えない。グラフではU字の底の真下の横軸の値
発注1回ごとにかかる手続きや配送の費用で、発注量を増やして回数が減るほど年間の合計は小さくなる。
⚠ 保管費用は発注量を増やすほど大きくなる。グラフでは右下がりの曲線が発注費用
在庫を置いておくためにかかる倉庫代などの費用で、平均在庫量(Q/2)に比例する。
⚠ グラフでは原点から右上がりの直線が保管費用
発注で補う量で、予測量-現在庫+安全在庫で求める。
それぞれの結果に確率を掛けて足し合わせた、平均的に見込める値。
売れ残った商品を捨てることで生じる損失。
⚠ 機会損失は品切れ側の損で、廃棄ロスは売れ残り側の損
品切れのせいで売れなかった分の、得られたはずの利益。
⚠ 需要>仕入の商品だけで数える。仕入が多すぎる商品は機会損失0(それは廃棄ロス側)
このレッスンの過去問
- 移動平均法による需要予測基本情報技術者試験 科目A免除 修了試験 20260614 実施分 問57
- 定量発注方式の在庫モデル読解平成28年度 秋期 基本情報技術者試験 午前 問78
- 在庫補充量の算定式の立式基本情報技術者試験 科目A免除 修了試験 20240609 実施分 問57
- 期待利益最大化の仕入個数の計算平成30年度 秋期 基本情報技術者試験 午前 問75
- 機会損失額の計算(需要超過分×単位利益)平成31年度 春期 基本情報技術者試験 午前 問78