損益分岐点と利益が最大になる案の選び方
固定費・変動費・目標利益から必要な売上高や客数を計算できるようになる。価格表・確率表・デシジョンツリー・利得表から、利益が最大(費用が最小)になる案を選べるようになる。
科目Aの企業活動で毎年のように出る「計算すれば必ず取れる」問題です。値上げすべきか、どの施策に賭けるかといった判断を数字で比べる、事業の意思決定の基本でもあります。
このレッスンで稽古する(用語チェック・過去問)結論:利益=売上高−変動費−固定費
この単元の計算問題は、ほぼすべて 利益=売上高−変動費−固定費 の1本で解けます。費用は「売れた分だけ増えるもの(変動費)」と「売れなくても毎月かかるもの(固定費)」の2種類に分けて考えます。損益分岐点(そんえきぶんきてん)とは、利益がちょうど0円になる売上高のことです。
| 用語 | 意味 | 喫茶店でいうと |
|---|---|---|
| 固定費 | 売上に関係なく一定額かかる費用 | 家賃・正社員の給料 |
| 変動費 | 売上(数量)に比例して増える費用 | コーヒー豆・カップ代 |
| 限界利益 | 売上高−変動費。固定費を回収し、利益を生む元手 | 1杯500円−原価100円=400円 |
| 損益分岐点売上高 | 利益が0になる売上高 | 家賃などをちょうど回収できた売上 |
たとえるなら、1杯売るたびに限界利益400円が貯金箱に入り、その貯金箱で月の家賃(固定費)を返していくイメージです。家賃を全部返し終えた時点が損益分岐点で、それより先に入るお金がそのまま利益になります。
覚える公式は4本(出題が最も多い)
変動費率=変動費÷売上高。売上1円のうち変動費に消える割合です。 限界利益率=1−変動費率。売上1円のうち、固定費の回収と利益に回る割合です。
- 損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率
- 目標利益を出すのに必要な売上高=(固定費+目標利益)÷限界利益率
- 個数・人数で問われたら:必要数量=(固定費+目標利益)÷1個当たり限界利益
- 限界利益率が問題文に無いときは、まず「変動費÷売上高」から変動費率を出す
| 求めるもの | 分子 | 分母 | 使う場面 |
|---|---|---|---|
| 損益分岐点売上高 | 固定費 | 限界利益率 | 「赤字にならない売上はいくら?」 |
| 必要売上高(目標利益あり) | 固定費+目標利益 | 限界利益率 | 「〇円の利益を出すには?」 |
| 必要数量・人数 | 固定費+目標利益 | 1個(1人)当たり限界利益 | 「何人の客が必要か?」 |
分母は**売上高でも単価でもなく、限界利益(率)**です。この取り違えが最大の失点ポイントです。
損益計算書から解くとき
損益計算書(そんえきけいさんしょ:一定期間の売上・費用・利益をまとめた表)で出題されると、売上原価と販売費・一般管理費の両方に変動費と固定費が混ざっています。そこで、変動費どうし・固定費どうしをそれぞれ足し合わせてから公式に入れます。
営業利益は計算には使いません。ただし「限界利益−固定費=営業利益」が成り立つかどうかで、検算には使えます。
価格表から利益が最大になる価格を選ぶ
案ごとに (価格−1個当たり変動費)×需要−固定費 を計算し、利益が最大の案を選びます。売上高が最大の案、需要(販売数)が最大の案は、たいてい正解ではありません。
期待値で案を選ぶ(確率表・デシジョンツリー)
期待値(きたいち)とは「起こりうる結果×その確率」をすべて足したもので、平均してどれくらいになるかの見込みです。期待値で案を比べる考え方を期待値原理といいます。利益なら最大、費用なら最小の案を選びます。問題文の「利益」と「費用」を必ず確認してください。
確率表の例(設備計画案):Cは 0.2×8+0.3×18+0.4×12+0.1×(−5)=1.6+5.4+4.8−0.5=11.3 で、A(10.4)・B(9.8)・D(9.4)より大きいのでCを選びます。1つの状況で最大のAの40に飛びつかないことが大切です。
デシジョンツリー(決定木)は、判断と偶然の分かれ道を木の形に並べた図です。
| 記号 | 名前 | その場での処理 |
|---|---|---|
| □ | 意思決定の分岐点 | 自分で選べるので、大きいほう(有利なほう)だけを採用する |
| ○ | 発生し得る可能性の分岐点 | 選べないので、**確率×値の合計(期待値)**をとる |
解くときは木の右端(後ろ)から左へ計算し、最後に初期費用を引きます。
ゲーム理論とナッシュ均衡(出題は少なめ)
ゲーム理論は、競争相手の出方を考えに入れて自分の行動を決めるための理論です。そのため「競争者がいる地域での販売戦略」のような場面で使います。ナッシュ均衡は「相手がその戦略を続けるなら、自分だけ戦略を変えても得をしない」状態が両者で同時に成り立つ組合せです。たとえば、駅前の2軒のパン屋がそれぞれ今の価格を「相手がこのままなら、自分も変えないのが一番」と思っている状態です。
確かめ方は、各マスについて「A社だけ戦略を変えたら得をするか」「B社だけ変えたら得をするか」を見ることです。どちらも得をしないマスがナッシュ均衡です。
| 業務 | 適した手法 |
|---|---|
| 競争者がいる市場での戦略 | ゲーム理論 |
| 入場ゲート数・窓口数の決定 | 待ち行列理論 |
| 売れ筋の要因分析 | 回帰分析など |
| 新商品の需要予測 | 予測手法(時系列分析など) |
試験での問われ方
- 必要売上高の問題では、目標利益を足し忘れた値、限界利益ではなく売上高(単価)で割った値、変動費を元の金額のまま足した値が選択肢に並びます。
- 人数を問う問題では、日数・席数で割る順番や回数を間違えた値が並びます。
- 損益計算書の問題では、固定費そのものや、片方の欄の固定費だけを使った値が選択肢に入ります。
- 価格表・期待値の問題では、売上最大・数量最大・単発の最大値の案がひっかけになります。
- ナッシュ均衡は、相手の最適な応じ方(最適反応)を両方向から確認したかが問われます。
目標利益に必要な売上高(公式の基本形)
ア 108
イ 120
ウ 156
エ 180
解き方と答えを見る
- 変動費率=変動費÷売上高=60÷100=0.6
- 限界利益率=1−0.6=0.4
- 必要売上高=(固定費+目標利益)÷限界利益率=(30+18)÷0.4=48÷0.4=120(百万円)
- 検算:売上120のとき変動費=120×0.6=72。利益=120−72−30=18で目標どおり
- ひっかけの確認:アの108は、売上が増えると変動費も比例して増えることを考えず、変動費60を固定のまま足している(60+30+18=108)
答え:イ(120百万円)
損益計算書から損益分岐点を出す
| 項目 | 内訳 | 金額 |
|---|---|---|
| 売上高 | 700 | |
| 売上原価 | 変動費 100 / 固定費 200 | 300 |
| 売上総利益 | 400 | |
| 販売費・一般管理費 | 変動費 40 / 固定費 300 | 340 |
| 営業利益 | 60 |
ア 250
イ 490
ウ 500
エ 625
解き方と答えを見る
- 変動費を合計する:売上原価の100+販管費の40=140(百万円)
- 固定費を合計する:売上原価の200+販管費の300=500(百万円)
- 限界利益率=(売上高−変動費)÷売上高=(700−140)÷700=560÷700=0.8
- 損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率=500÷0.8=625(百万円)
- 検算:限界利益560−固定費500=60で、表の営業利益60と一致する
- ひっかけの確認:ウの500は固定費をそのまま答えた値。アの250は売上原価の固定費200だけを使った値(200÷0.8)
答え:エ(625百万円)
必要な客数を1席・1日当たりに直す
| 客 1 人当たりの売上高 | 500 円 |
|---|---|
| 客 1 人当たりの変動費 | 100 円 |
| 固定費 | 300,000 円/月 |
| 1 か月の営業日数 | 20 日 |
| 客席数 | 10 席 |
ア 3.75
イ 4
ウ 4.2
エ 5
出典:令和7年度 基本情報技術者試験 科目A 公開問題 問19
解き方と答えを見る
- 1人当たり限界利益=売上500円−変動費100円=400円
- 月に必要な客数=(固定費300,000円+目標利益100,000円)÷400円=400,000÷400=1,000人
- 1日当たり=1,000人÷20日=50人
- 1席当たり=50人÷10席=5人
- ひっかけの確認:目標利益を忘れると300,000÷400=750人で、750÷20÷10=3.75(ア)。限界利益ではなく単価500円で割ると400,000÷500=800人で、800÷20÷10=4(イ)
答え:エ(5人)
価格表から利益が最大になる価格を選ぶ
| 座席価格 (円) | 需要予測 (席) |
|---|---|
| 20,000 | 200 |
| 18,000 | 250 |
| 15,000 | 280 |
| 12,000 | 300 |
ア 20,000 円
イ 18,000 円
ウ 15,000 円
エ 12,000 円
出典:基本情報技術者試験 科目A免除 修了試験 20260726 実施分 問57
解き方と答えを見る
- 式:利益=(価格−変動費6,000円)×席数−固定費1,200,000円
- 20,000円:14,000×200=2,800,000 → 2,800,000−1,200,000=1,600,000円
- 18,000円:12,000×250=3,000,000 → 3,000,000−1,200,000=1,800,000円
- 15,000円:9,000×280=2,520,000 → 2,520,000−1,200,000=1,320,000円
- 12,000円:6,000×300=1,800,000 → 1,800,000−1,200,000=600,000円
- 最大は18,000円。満席になる12,000円の利益は最も小さい
答え:イ(18,000円)
デシジョンツリーを後ろから解く
| 施策 | 利益増加額の期待値(億円) | |
|---|---|---|
| ア | a | 70 |
| イ | a | 160 |
| ウ | b | 82 |
| エ | b | 162 |
ア 施策 a,利益増加額の期待値 70(億円)
イ 施策 a,利益増加額の期待値 160(億円)
ウ 施策 b,利益増加額の期待値 82(億円)
エ 施策 b,利益増加額の期待値 162(億円)
出典:基本情報技術者試験 科目A免除 修了試験 20260125 実施分 問57
解き方と答えを見る
- 施策aの0.4側の□:追加費用ありは期待値 0.3×200+0.7×100=60+70=130、そこから追加費用60を引いて70。追加費用なしは50。大きいほうの70を採用する
- 施策aの○:0.4×70+0.6×120=28+72=100。初期費用30を引いて 100−30=70億円
- 施策bの0.3側の□:追加費用ありは 0.4×150+0.6×100=60+60=120、追加費用40を引いて80。追加費用なしは70。大きいほうの80を採用する
- 施策bの○:0.3×80+0.7×140=24+98=122。初期費用40を引いて 122−40=82億円
- 比較:a=70、b=82なので、bの82億円が最大
答え:ウ(施策b、82億円)
ナッシュ均衡を両方向から確かめる
解き方と答えを見る
- (a1,b1)=(40,20):A社がa1のとき、B社はb1(20)よりb2(30)が得なので変えたくなる → 均衡ではない
- (a1,b2)=(50,30):B社がb2のとき、A社はa1(50)がa2(25)より得。A社がa1のとき、B社はb2(30)がb1(20)より得 → どちらも変えたくない
- (a2,b1)=(30,10):B社がb1のとき、A社はa1(40)に変えたほうが得 → 均衡ではない
- (a2,b2)=(25,25):B社がb2のとき、A社はa1(50)に変えたほうが得 → 均衡ではない
答え:イ(A社a1、B社b2)
要点(試験直前に読む)
- 利益=売上高−変動費−固定費。限界利益率=1−変動費率(変動費÷売上高)
- 損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率。必要売上高=(固定費+目標利益)÷限界利益率
- 人数・個数で問われたら(固定費+目標利益)÷1個当たり限界利益。その後に日数・席数で割る
- 価格表は案ごとに(価格−変動費)×数量−固定費を計算する。売上や数量の最大では選ばない
- 期待値=Σ(値×確率)。デシジョンツリーは後ろから解き、□は有利なほうを選び、○は期待値をとり、最後に初期費用を引く
- ナッシュ均衡=両者とも自分だけ戦略を変えても得をしない組合せ。ゲーム理論は競争者がいる戦略に使う
ひっかけ
- 目標利益を足し忘れる、または限界利益ではなく売上高(単価)で割る → 分子は「固定費+目標利益」、分母は「限界利益(率)」
- 売上が増えても変動費を元の金額のまま足す(例:60+30+18=108) → 変動費は売上に比例して増えるので、率で考える
- 損益計算書で固定費をそのまま答えたり、片方の欄だけ使ったりする → 売上原価と販管費の変動費・固定費をそれぞれ合計し、営業利益で検算する
- 売上最大・需要最大・単発の最大利益の案に飛びつく → 全案の利益(または期待値)を計算して比べる。費用の問題は最小を選ぶ
- デシジョンツリーで途中の追加費用や初期費用を引き忘れる → 枝ごとに「期待値−費用」を出してから比べる
用語(14)
売上や生産量に関係なく、期間ごとに一定額かかる費用。
⚠ 変動費と混同しやすい。売れなくてもかかるのが固定費、売れた分だけかかるのが変動費。
売上や生産量に比例して増減する費用。
⚠ 固定費と区別する。損益計算書では売上原価と販管費の両方に含まれることがある。
売上高に占める変動費の割合で、変動費÷売上高で求める。
⚠ 限界利益率と取り違えやすい。両者を足すと1になる。
売上高から変動費を引いた額で、固定費の回収と利益の元手になる。
⚠ 営業利益と区別する。限界利益からさらに固定費を引いたものが営業利益。
売上高に占める限界利益の割合で、1−変動費率で求める。
⚠ 変動費率と逆にしやすい。損益分岐点の公式で分母に使うのはこちら。
利益がちょうど0になる売上高(または販売数量)で、固定費÷限界利益率で求める。
⚠ 目標利益を達成する必要売上高と区別する。そちらは分子に目標利益を足す。
達成したい利益額で、必要売上高を求めるときは固定費に足して分子に入れる。
売上高から売上原価と販売費・一般管理費を引いた、本業で得た利益。
⚠ 限界利益と混同しやすい。損益分岐点の計算には使わず、検算に使う。
起こりうる結果ごとに値×確率を求め、すべて足した平均的な見込み額。
⚠ 最大値・最頻値と混同しない。1つの状況だけ大きい案が有利とは限らない。
各案の期待値を比べ、利益なら最大、費用なら最小の案を選ぶ意思決定の考え方。
⚠ 利益の問題か費用の問題かで、最大と最小が逆になる。
意思決定の分岐(□)と確率で起こる分岐(○)を木の形に並べ、期待値で案を比べる図。
⚠ □では有利なほうを1つ選び、○では期待値をとる。処理を逆にしない。
需要の多い少ないに応じて価格を変え、利益を最大化しようとする価格設定の方法。
競争相手など他者の行動を考えに入れて、自分の最適な行動を分析する理論。
⚠ 待ち行列理論(窓口数の決定)、回帰分析(要因分析)、需要予測と使う場面を区別する。
どの参加者も、相手の戦略を前提にすると自分だけ戦略を変えても得をしない組合せ。
⚠ 「合計や自社の利得が最大のマス」とは限らない。両者の最適反応を確かめる。
このレッスンの過去問
- 損益分岐点分析による必要売上高計算令和7年度 基本情報技術者試験 科目A 公開問題 問19
- 最大利益を得る設定価格の選択(需要予測表)基本情報技術者試験 科目A免除 修了試験 20260726 実施分 問57
- 期待値による最大利益案の選択平成23年度 特別試験 基本情報技術者試験 午前 問75
- ゲーム理論のナッシュ均衡基本情報技術者試験 科目A免除 修了試験 20220612 実施分 問77